キノフィルムズ

公開終了
2020年8月15日(土)公開

この世の果て、数多の終焉

ここが最も「死」に近い場所。
第二次世界大戦末期、仏領インドシナの戦場。大量虐殺をただ1人、生き延びたフランス人兵士。傷ついた魂が行き着く果てとは―。

イントロダクション

イントロダクション画像

1945年3月、フランス領インドシナ。駐屯地での殺戮をただひとり生き延びたフランス人兵士ロベールは、兄を殺害したベトナム解放軍の将校ヴォー・ビン・イェンへの復讐を誓い、部隊に復帰する。しかし険しい密林でのゲリラとの戦いは苛烈を極め、憎きヴォー・ビンの居場所は一向につかめなかった。その悪夢のような日々のなか、マイというベトナム人の娼婦に心惹かれるロベールだったが、復讐の怨念に駆られる彼はもはや後戻りできない。やがて軍規に背く危うい行動を繰り返し、理性を失ったロベールは、さらなるジャングルの奥地に身を投じていくのだった……。
ひとりの若きフランス人兵士の壮絶なる肉体と魂の彷徨を通して本作があぶり出すのは、まさしくこの世の地獄というべき戦場の生々しい現実だ。ニクルー監督は殺戮という無慈悲な行為が日常化し、兵士がいともやすやすとただの肉塊に変わり果てていく戦争のあまりにも不条理なリアルを、いわゆる痛快な見せ場や扇情的なバイオレンスを一切排除した禁欲的な演出スタイルで映し出す。透徹したリアリズムにほのかな幻想性が入り混じったその映像世界は、人間が人間でいられなくなる〈最も“死”に近い場所〉へと観る者を誘っていく。説明描写をあえて最小限にとどめ、想像と解釈の余地を広げた独特のストーリーテリングの手法も実に刺激的。心身共にずたずたに傷ついた主人公の“行き着く果て”はどこなのか、最後までまったく目が離せない。

ストーリー

ストーリー画像

-3月-
1945年3月9日、フランス領インドシナ。それまでフランスと協力関係を結んでいた日本軍が明号作戦と名付けたクーデターを起こし、フランス軍を一斉に攻撃した。からくも一命を取り留め、惨たらしい死体の山から這いずり出た若き兵士ロベール・タッセン(ギャスパー・ウリエル)は、森をさまよって意識を失ったところを地元の農民に救われる。
美しい自然に癒やされて回復したロベールは、フランス軍の駐屯地へ向かい、連隊への復帰を申し出る。彼の願いはただひとつ、兄夫婦を虐殺した敵への復讐を果たすこと。その敵とはベトナム解放を求めるホー・チ・ミンの補佐官で、日本軍の蛮行を見て見ぬふりをしたヴォー・ビン・イェン中尉だった。こうして隊列に戻ったロベールは、駐屯地で出会った兵士カヴァニャ(ギョーム・グイ)とともに、ベトナム人民ゲリラに斬首された神父の遺体を埋葬する。

-7月-
熱帯の原生林が生い茂るベトナムの自然環境は、息苦しいほど蒸し暑く、フランス軍は険しい地形や体調不良にも苦しめられていた。しかも武装したゲリラが森のあちこちに隠れ潜み、一瞬たりとも気が抜けない。ある日の行軍中、突然の銃撃を浴びたロベールは肩と足を負傷してしまう。
病院での静養中、思いがけない人物がロベールを見舞いにやってきた。現地在住の年老いた作家サントンジュ(ジェラール・ドパルデュー)である。彼が置き残していったアウグスティヌスの自伝「告白」を読んだロベールは、退院後に再びサントンジュと言葉を交わす。ロベールが母国に養母がいることを打ち明けると、サントンジュは「帰国して家族を作りなさい。人生を捨てるには早すぎる」と語りかけるが、復讐の念に取り憑かれたロベールは聞く耳を持たない。
上等兵に昇進したロベールは、カヴァニャらとともに街のダンスホールに繰り出し、青いドレスを着た可憐なベトナム人女性マイ(ラン=ケー・トラン)に目を奪われる。酒場の娼婦であるマイは、かつて山から下りてきたロベールに無償のスープを振る舞ってくれた女性だった。その夜、マイを買ったロベールは、彼女の粗末な家で激しく体を重ね合った。

-9月~11月-
憎きヴォー・ビンの捜索に執着するロベールは、しばしば軍規を乱すようになっていた。「公私混同せず、国のために戦え」という上官の命令にも抗い、ベトナム人捕虜を使って攻撃を仕掛けようとするロベールだったが、ベトナム人にとって自由を象徴する英雄であるヴォー・ビンに関する情報はまったく得られない。
ジャングルでの果てしないゲリラとの戦いは、いっそう過酷なものになっていった。心身共に疲弊しきったロベールとカヴァニャは、阿片の陶酔に身を委ねるが、朦朧とした意識の中で敵に急襲される。もはや現実と悪夢の境目さえ曖昧な極限状況の中で、ロベールは現地の盲目の少女を犯したベトナム兵を狂ったように射殺するのだった。
ロベールのやり場のない苛立ちは、心の安らぎを見出したマイとの関係にも悪影響を及ぼしていた。あるときは力尽くで、あるときは金で「俺だけの女になれ」とマイに服従を迫るロベールだったが、彼女は「私は自由よ」と頑なに応じなかった。

-12月-
駐屯地にヴォー・ビンの居場所を知っているという少年が現れ、ロベールは最後の遠征を決意する。その情報は本当に信用できるのか、それとも罠なのか。出発前夜、マイに「もう戻らない」と告げたロベールは、気心の知れたカヴァニャとともに数名のベトナム人捕虜を従え、無謀とも思えるジャングルの山越えに挑むのだが……。

ギャスパー・ウリエル

|ロベール・タッセン|
1984年、仏ブローニュ=ビヤンクール生まれ。1990年代後半からTVシリーズに出演し、『ジェヴォーダンの獣』(01)で映画デビュー。パリ第8大学で映画を専攻するかたわら、アンドレ・テシネ監督の戦争ロマンス『かげろう』(03)でエマニュエル・ベアールの相手役に抜擢される。ジャン=ピエール・ジュネ監督と組んだ『ロング・エンゲージメント』(04)では、3度目のノミネートにしてセザール賞有望若手男優賞を初受賞。さらにハンニバル・レクターの若き日を演じた『ハンニバル・ライジング』(07)で世界中の注目を集めた。その後も、持ち前の端正なルックスのみならず演技力に磨きをかけ、天才デザイナーのイヴ・サンローランに扮した『サンローラン』(14)で初めてセザール賞主演男優賞にノミネート。グザヴィエ・ドラン監督と組んだ『たかが世界の終わり』(16)で同賞を受賞した。そのほかの主な出演作は『THE LAST DAY』(04・未)、『パリ、ジュテーム』(06)、『ジャック・ソード 選ばれし勇者』(07・未)、『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』(09)、『インサイドゲーム』(09・未)、『ザ・ダンサー』(16)、『グザヴィエ・ドラン バウンド・トゥ・インポッシブル』(16)、『ワンネーション・ワンキング』(18・未)、『エヴァ』(18)など。ギョーム・ニクルー監督が企画を務めたTVシリーズ「トワイス・アポン・ア・タイム」(19)でも主演を務めている。

ギョーム・グイ

|カヴァニャ|
1983年、仏エクス=アン=プロヴァンス生まれ。16歳の時にTVドラマ「Dérives」で俳優のキャリアをスタートさせたのち、2004年までマルセイユのコンセルヴァトワールとカンヌ地方俳優学校で演技を学ぶ。その後は数多くの映画、TVシリーズ、舞台に出演。『Jimmy Rivière』(11)ではセザール賞有望若手男優賞とリュミエール賞最優秀新人男優賞にノミネートされた。最近では『私の知らないわたしの素顔』(19)でジュリエット・ビノシュと共演している。そのほかの主な出演作は『美しき棘』(10・未)、『突然、みんなが恋しくて』(11・未)、『赤い手帳』(11・未)、『ぼくを探しに』(13)、『フレンチ・コネクション -史上最強の麻薬戦争-』(14・未)、『ザ・クルー』(15)、『アナーキスト 愛と革命の時代』(15)、『レイジング・ドッグス』(15・未)、『ギャスパール、結婚式へ行く』(17)など。

ラン=ケー・トラン

|マイ|

ジェラール・ドパルデュー

|サントンジュ|
1948年、仏シャトールー生まれ。16歳の時に国立民衆劇場に参加し、俳優の道を歩み出す。ベルトラン・ブリエ監督作品『バルスーズ』(73)で脚光を浴び、その後も『ジュ・テーム…』(75)、『1900年』(76)といった話題作に次々と出演し、フランスを代表するスターに。『終電車』(80)でセザール賞男優賞、『ソフィー・マルソーの刑事物語』(84・未)でヴェネチア国際映画祭男優賞、『シラノ・ド・ベルジュラック』(90)でカンヌ国際映画祭男優賞とセザール賞主演男優賞、『グリーン・カード』(90)でゴールデン・グローブ賞男優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞している。その他の主な出演作は『隣の女』(81)、『カミーユ・クローデル』(88)、『美しすぎて』(89)、『ジェルミナル』(93)、『ゴダールの決別』(93)、『俺たちは天使だ』(95)、『仮面の男』(98)、『メルシィ!人生』(00)、『宮廷料理人ヴァテール』(00)、『ヴィドック』(01)、『あるいは裏切りという名の犬』(04)、『ルビー&カンタン』(03)、『刑事ベラミー』(09)、『しあわせの雨傘』(10)、『愛と死の谷』(15・未)など。

スタッフ

  • 監督・脚本:ギョーム・ニクルー

    1966年、仏ムラン生まれ。自作の脚本を映画化した『Les enfants volants』(91)で監督デビュー。それ以降、10本以上の長編映画を発表し、いくつかのTVシリーズの演出も手がけている。日本で初めて劇場公開された作品は、ジャン=クリストフ・グランジェ原作、モニカ・ベルッチ、カトリーヌ・ドヌーヴ出演のサスペンス・アクション『ストーン・カウンシル』(05)。イザベル・ユペール、ジェラール・ドパルデューがカリフォルニアのデスバレーを訪れる元夫婦を演じた『愛と死の谷』(15・未)は、セザール賞撮影賞に輝き、日本ではフランス映画祭2016にて上映された。そのほかの主な作品はベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品された『La religieuse』(13)、トライベッカ映画祭で脚本賞を受賞した『L'enlèvement de Michel Houellebecq』(14)など。また、俳優としての出演作に『ターニング・タイド 希望の海』(13)などがあり、2019年のTVシリーズ「トワイス・アポン・ア・タイム」の企画にも携わった。すでに本作の次回作としてミシェル・ウエルベック、ジェラール・ドパルデュー出演のコメディ『Thalasso』(19)を発表している。

  • 脚本:ギョーム・ニクルー&ジェローム・ボージュール

  • 撮影:ダヴィッド・ウンガロ

  • 美術:オリヴィエ・ラド

  • 衣装:アナイス・ロマン

  • 音楽:シャノン・ライト

  • 録音:オリヴィエ・ドー・ユゥ、ファニー・ヴァインゼップフレン、ピエール・シュクルン、ブノワ・イルブラン

  • 編集:ギー・ルコルヌ

この世の果て、数多の終焉

2018年/フランス/原題:LES CONFINS DU MONDE/英題:TO THE ENDS OF THE WORLD/仏語・ベトナム語/カラー/SCOPE/5.1ch/103分/R18
配給:キノフィルムズ/提供:木下グループ
© 2017 Les films du Worso-Les Armateurs-Orange Studio-Score Pictures-Rectangle Productions-Arena Films-Arches Films-Cinéfeel 1- Same Player- Pan Européenne- Move Movie- Ce Qui Me Meut