新作を発表するたびに、全く違うジャンルの新しいテーマを打ち出し、世界を驚きと興奮で包み続けてきたフランソワ・オゾン。女性心理を巧みに描き、世界中の映画ファンを魅了してきたオゾンが本作で描くのは、17歳の少女の大きく変化していくセクシュアリティ。少女と女の間で揺れ動く17歳の四季を、いつものごとく洗練され、いつになく攻撃的な、刺激に満ちあふれた問題作に昇華している。
主人公・イザベルを演じるのは、モデル出身で本作が映画初主演となるマリーヌ・ヴァクト。オゾンに見出された彼女は、カンヌ国際映画祭で各国のマスコミから大絶賛され、フランス映画界の次世代を担う存在として最も注目を集めている。娘の秘密を知ってうろたえ動揺する母をジェラルディン・ペラス、穏やかな義父をフレデリック・ピエロが演じている。さらにオゾンの永遠のミューズ シャーロット・ランプリングが重要な役どころを演じ、ミステリアスな17歳の心理に、ひとつの答えを提示している。
夏から始まり春で終わる物語の、それぞれの季節の終わりに流れる、フランソワーズ・アルディの思春期の歌。高校の授業のシーンで、学生たちが語り合う、天才詩人アルチュール・ランボーが「17歳ともなれば、まじめ一筋ではいられない」とうたった詩「物語」。若さと美しさをキーワードに、幾層にも緻密に構成されたオゾン・ワールドが、ここに完成した。
夏のバカンス先で初体験を終え、17歳の誕生日を迎えたパリの名門高校生・イザベル。バカンスを終えてパリに戻った彼女は、SNSを通じて知り合った不特定多数の男たちと密会を重ねるようになる。そんなある日、馴染みの初老の男が行為の最中に急死、思わずその場から逃げ去ったイザベルだったが、まもなく警察によって彼女の秘密が家族に明かされた。快楽のためでも、ましてや金のためでもないと語り、あとは口を閉ざすイザベル。いったい彼女に何が起きたのか―?
〈イザベル〉
1990年、フランス・リヨン出身。15歳のときにオペラ座界隈のH&Mでスカウトされ、モデルとしてキャリアをスタート。11年にはケイト・モスの後のイヴ・サンローランの香水"パリジェンヌ"のイメージモデルに抜擢される。20歳の時に、『Ma part du gâteau 』で女優デビューを果たした後、『フランス、幸せのメソッド《未》』(10/共にセドリック・クラピッシュ監督)に出演。ダーレン・アロノフスキー監督によるイヴ・サンローランの男性用香水「la Nuit de l' homme」のクリップではヴァンサン・カッセルと共演。そして、「他の女優とはまったく別の印象を受けた。彼女の目のなかに"内なる世界"とミステリアスさを感じた」と、初めてマリーヌに会った時のセンセーショナルな印象を語るフランソワ・オゾン監督に見出され、本作で長編初主演を飾っている。本作が出品された第66回カンヌ国際映画祭では、オゾンの新たなミューズとして注目を浴び、“カンヌの夜に咲いた昼顔”と世界中のメディアから絶賛された。
〈シルヴィ(イザベルの母)〉
1971年、フランス・マルセイユ出身。元々はダンサーを目指していたが、88年、ジャック・ドゥミ監督の『想い出のマルセイユ』で映画デビュー。91年に『La Neige et le feu』(クロード・ピノトー監督)に出演し、セザール賞有望若手女優賞を受賞。『ドンファン』(95/ジェレミー・レヴェン監督)で、ジョニー・デップやマーロン・ブランドなど大物俳優との共演を果たし、『パパと呼ばないで《未》』(同/モーリス・ピアラ監督)では、フランスの名優ジェラール・ドパルデューの妻役を演じた。その後、『パリの確率』(99/セドリック・クラピッシュ監督)、『見えない嘘《未》』(01/ニコール・ガルシア監督)などに出演。03年には、『Le Coût de la vie』での演技が評価され、セザール賞の助演女優賞にノミネートされる。また、夫のクリストファー・トンプソンが脚本を務めた『輝ける女たち』(06/ティエリー・クリファ監督)でカトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアールら豪華キャスト陣と共演。フランソワ・オゾン監督作は『ふたりの5つの分かれ路』(04)以来の出演となる。
〈パトリック(イザベルの義父)〉
1960年、フランス・セーヌ出身。『素顔の貴婦人』(ベルトラン・タヴェルニエ監督)で映画デビュー。同監督の作品では『夢だと云って』(98)にも出演している。その後、ケン・ローチ監督『大地と自由』(95)、ジャン=リュック・ゴダール監督『フォーエヴァー・モーツァルト』(96)など、巨匠の作品に相次いで出演し知名度を上げる。近年では、第23回東京国際映画祭の最優秀監督賞/観客賞 受賞作『サラの鍵』(10/ジル・パケ=ブレネール監督)、『タイピスト!』(12/レジス・ロワンサル監督)などに出演。その他の代表作に、『ゴッド・ディーバ』(04/エンキ・ビラル監督)、『メトロで恋して』(04/アルノー・ヴィアール監督)、『奇跡の朝』(04/ロバン・カンピヨ監督)、『ずっとあなたを愛してる』(08/フィリップ・クローデル監督)、『わたしたちの宣戦布告』(11/ヴァレリー・ドンゼッリ監督)などがある。
〈アリス(ジョルジュの妻)〉
1946年、イギリス・エセックス州スターマー出身。大学で秘書課程をおさめ、ロンドンで秘書をやっていたが、スカウトされモデルに転身。モデルとしての活躍がリチャード・レスター監督の目にとまり、65年に『ナック』で映画デビューを果たす。その後、ロイヤル・コート・シアターで本格的に演技を学び、イタリアに渡り、『地獄に堕ちた勇者ども』(69/ルキノ・ヴィスコンティ監督)、『さらば美しき人』(71/ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督)などに出演した後、73年の『愛の嵐』(リリアーナ・カヴァーニ監督)で見せた、ナチスの帽子をかぶり上半身裸にサスペンダー姿は当時あまりにも衝撃的であった。その他の代表作に『評決』(82/シドニー・ルメット監督)や、カズオ・イシグロの小説の映画化作『わたしを離さないで』(10/マーク・ロマネク監督)などがある。オゾン作品への出演はヨーロッパ映画賞主演女優賞に輝いた『スイミング・プール』(03)、『エンジェル』(07)、『まぼろし』(12)に続き、4本目となる。待機作として、ジェレミー・アイアンズ、メラニー・ロランらと共演する『Night train to Lisbon(原題)』(2014年 日本公開予定)が控えている。
1967年、フランス・パリ出身。90年、国立の映画学校フェミスの監督コースに入学。次々に短編作品を発表し、『サマードレス』(96)でロカルノ国際映画祭短編セクション・グランプリを受賞。97年の中編『海をみる』を経て、翌年に発表した長編第一作目『ホームドラマ』がカンヌ国際映画祭批評家週間で大きな話題となる。99年には『クリミナル・ラヴァーズ』がベネチア国際映画祭に正式出品され、続く『焼け石に水』(00)で、ベルリン国際映画祭のテディ2000賞を受賞。01年、『まぼろし』がセザール賞の作品賞と監督賞にノミネートされ国際的にも高い注目を集め、翌年には『8人の女たち』で、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。その後『スイミング・プール』(03)、『しあわせの雨傘』(10)など多種多様な作品を発表し続けている。待機作として『Je suis femme(原題)』が控えている。