『逃げきれた夢』公開記念舞台挨拶レポート
2023年6月10日光石研さんからのサプライズ手紙で二ノ宮監督大感動!
映画『逃げきれた夢』の公開記念舞台挨拶が6月10日(土)、東京・新宿の新宿武蔵野館にて行なわれ、主演の光石研さんと二ノ宮隆太郎監督が登壇。光石さんの故郷である北九州を舞台に描かれた本作がこうして無事に全国公開を迎えたことについて本人は「東京でこうやって舞台挨拶するって緊張します。完成披露試写会の時は松重(豊)さんとか、みなさんいらしたんですけど、今日は一番頼りない2人が来てるんで(笑)、どうなることやら不安ですが 」と語り、二ノ宮監督は緊張した面持ちで「いま自分はどこにいるのか?何をしてるんだ?という思いです(苦笑)。光石さんと一緒に特別な映画をつくれたと思っているので嬉しいです」と喜びを語りました。
本作が第76回カンヌ国際映画祭のACID部門に選出され渡仏したことが話題になると、光石さんにとっては、故・青山真治監督の『ユリイカ』(2000年)以来23年ぶりのカンヌ参加でしたが「ACID部門というのは、商業ベースに抗うような、若い監督たちが世界中の映画を観て選ぶと聞いて、そこに選出されたのが誇らしい気持ちでした。温かい拍手をいただいて、幸せでした」と笑顔で語りました。二ノ宮監督も「映画が大好きな方しか集まらない場所で、たくさんの方に声をかけていただいて幸せでした」とふり返りました。
今回のカンヌには、他にも日本から多くの映画人が参加していましたが、光石さんも現地で幾人かと顔を合わせ交流を深めたそう。「上映が終わって、ホテルのラウンジでお疲れの乾杯をしていたら、たまたま(ヴィム・ヴェンダース監督作品『PERFECT DAYS』で参加していた)役所(広司)さんの一団がいらして、お会いしました。次の日には(北野武監督作品『首』で参加していた)大森南朋さんが来てくれて朝、一緒にごはんを食べました」とエピソードを披露しました。
本作はもともと、故・緒形拳さんを主演に制作すべく温められてきた企画だったことも明かされ、光石さんは事務所の先輩でもある緒形拳さんとの縁を最初に聞いた時は「本当に畏れ多くて、名優・緒形拳さんのために準備されてきた企画と聞いて、こんな僕でいいのかと思いましたが、ありがたい話であり、良い経験をさせていただきました。二ノ宮監督と監督と俳優という関係を築けたのもありがたい経験だったし、60歳を超えて、まだまだ良い刺激をいただけるんだなと思いました」と感慨深げに語りました。
二ノ宮監督は、子どもの頃から光石さんの大ファンだったとのことで「(光石さんが)ドラマや映画に出ていたらとりあえず見るという生活を小っちゃい頃から続けていました。『そこにいる』感覚が他の俳優さんとは違うなと幼いながらも思いながら見ていました」と光石さんへの崇拝にも近い思いを口しました。
光石さんは、生まれ育った故郷・北九州に凱旋しての撮影となったが「それが一番照れくさかったです(苦笑)。18まで遊んでたところで、何かに扮して演技するなんて、本当に恥ずかしかったです。地元の友だちとか知り合いが様子を見に来て、電信柱の陰から見てたりして、とても恥ずかしかったです」と明かしつつ「北九州の八幡区の黒崎というところで育ったんですけど、黒崎を映した映画なんてほとんどないと思うので、歴史に残る史料になるんじゃないかと思います」としみじみと語っていました。
二ノ宮監督は忘れられないシーンとして、光石さんの実の父親が出演し、光石さんと向き合っているシーンに触れ「あのシーンを見つめている感覚は、今までに一度もない感覚でした」と述懐。二ノ宮監督から光石に、父親の出演をお願いしたそうだが、光石さんは父親の反応について「喜んでましたね。若いスタッフに囲まれて、彼にとっては祭りごとのようなことをやってもらって」と明かす一方、カメラの前での実の父親との共演は「恥ずかしかったです。目を合わせられなかったですね」と照れくさそうに語っていました。
そして、この日はサプライズで、光石さんは事前に自らしたためてきた監督への手紙を観客の前で朗読。
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前略 二ノ宮隆太郎カントク
唐突ですが、僕は貴方の事を知りません。
貴方が何処に住み、家賃はいくらなのか。
年齢もあやふやだし、出身地もふわっとしか分からない。
ただ、「貴方の見つけた事」はあります。
それは貴方が、御両親を愛していると云う事です。
それは貴方が、スタッフ・キャストを愛していると云う事です。
それは貴方が、映画を愛していると云う事です。
貴方が、ロケ地に御両親を御招きしたり、完成披露試写会で、お父様のスーツで登壇したり。
貴方が現場で、誰にでも平等に接し、真摯に向き合う姿を見たり。
貴方が、カンヌの上映後、感動のあまり、号泣しながら夜道を歩いたり。
そんな貴方を僕は知っています。
そして、御両親が、キャスト・スタッフが、それから映画が、そんな貴方を愛しています。
貴方のマジメで誠実な性格で、愚直に撮り続けて下さい。
最後にパワハラをひとつ 「また、俺をつかえよ」
「逃げきれた夢」初日上映 おめでとうございます。
光石研
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光石さんが愛情あふれる手紙を読み終えると、二ノ宮監督は目元に光るものを浮かべながら「聞いてなかったんで、本当に嬉しくて…」と大感激。そして「実は、今日も両親が来ています」と客席にご両親がいることを明かし「こんな嬉しいことはないです。またコツコツ頑張ります!」と決意を新たにしていました。
舞台挨拶の最後に光石さんは「この映画は本当に地味です。紆余曲折、起承転結があるような派手な映画ではないんですが、一人でも多くの方に観ていただければと思います」と呼びかけ、会場は温かい拍手に包まれました。